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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)1057号 判決 1990年6月21日

原告

釘崎美津子

ほか二名

被告

中村信貴

主文

一  被告は、原告釘崎美津子に対し、金六三二万一五九二円、原告菅野美由貴及び原告釘崎佳郎に対し、各金三一三万五七九六円、並びに右各金員に対する昭和六三年一二月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を被告の負担とし、その余は原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告釘崎美津子に対し、金九九九万八八六七円、原告菅野美由貴及び原告釘崎佳郎に対し、各金四九四万九四三四円、並びに右各金員に対する昭和六三年一二月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

発生日時 昭和六三年一二月四日午後一〇時三〇分ころ

発生場所 神戸市東灘区魚崎西町三丁目五番一一号先国道四三号線上(以下「本件道路」という。)

加害車 被告運転の普通乗用自動車

被害者 亡釘崎朝雄(以下「亡朝雄」という。)

事故態様 被告が、加害車を運転して本件道路を西から東へ向けて走行中、本件道路上の亡朝雄に加害車の前部を衝突させたもの

2  亡朝雄は、本件事故により路上に転倒し、頭蓋骨開放骨折、脳脱出等の傷害を受け、本件道路において死亡した。

3  責任原因

被告は、加害車を運転し、本件道路を西から東へ向けて時速六〇キロメートルで走行中、前方注視を欠いたためおりから本件道路を南から北へ横断走行中の亡朝雄に気が付かず、右速度のまま加害車前部を衝突させたものであるから、前方注視義務違反の過失があり、民法七〇九条により、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

4  損害

(一) 亡朝雄の損害

(1) 逸失利益 金四三四二万五三三五円

亡朝雄は、本件事故当時、満五三歳の健康な男子で、妻である原告釘崎美津子(以下「原告美津子」という。)と同居していたところ、同人は、「稲次工務店」の屋号で建築請負業者を営む稲次満憲に大工として雇われ、昭和六三年一月から同年一一月までの間別表記載のとおり給与の支払いを受け、一か月の平均給与は金四九万六六三六円であつたから、就労可能年数は五三歳から六七歳までの一四年間、算定基礎年収は金五九五万九六三二円(四九万六六三六円×一二=五九五万九六三二円)、生活費は右収入の三割、中間利息は新ホフマン計数により控除すると、右の計算式のとおり金四三四二万五三三五円(円未満切捨て)となる。

(五九五万九六三二円×〇・七×一〇・四〇九四=四三四二万五三三五円)

(2) 相続

原告美津子は亡朝雄の妻であり、原告菅野美由貴及び原告釘崎佳郎(以下それぞれ「原告美由貴」、「原告佳郎」という。)はそれぞれ亡朝雄の長女、長男であるところ、原告らは、亡朝雄の死亡により、同人の右損害賠償請求権の全額をそれぞれの法定相続分に従い原告美津子については二分の一宛、原告美由貴及び原告佳郎については各四分の一宛相続した(原告美津子は金二一七一万二六六七円、原告美由貴及び原告佳郎は各金一〇八五万六三三四円)。

(二) 葬儀費用 金一〇〇万円

原告らは、亡朝雄の葬儀費用として金百数十万円を支出したが、本件事故と相当因果関係のある損害としては金一〇〇万円が相当であり、これを原告美津子が金五〇万円宛、原告美由貴及び原告佳郎が各二五万円宛負担した。

(三) 原告らの慰謝料 原告美津子につき金九〇〇万円原告美由貴及び原告佳郎につき各金四五〇万円

亡朝雄は、本件事故当時満五三歳の働き盛りであつたが、本件事故により本件道路上で頭蓋骨を開放骨折し、脳が頭外へ飛び出すという悲惨な死を遂げたこと、被告は、前方注視を欠き、亡朝雄に全く気付いていなかつたうえ、制限速度を二〇キロメートルも超過する速度で走行していたこと、原告美由貴及び原告佳郎は、ともに結婚して同居はしていないものの神戸市内に居住し、原告美津子にとつては勿論のこと、原告美由貴及び原告佳郎にとつても、亡朝雄は精神的支柱であつたところ、原告らは、夫であり父である亡朝雄を本件事故で失い、多大な精神的苦痛を被つたこと等の諸事情を斟酌すると、原告らの被つた精神的苦痛に対する慰謝料としては、原告美津子につき金九〇〇万円、原告美由貴及び原告佳郎につき各金四五〇万円が相当である。

(四) 損害のてん補

原告らは、亡朝雄の死亡による損害のてん補として、自賠責保険から金二四五〇万円、被告から金五〇万円の支払いを受け、これらをそれぞれ法的相続分に従い(原告美津子につき金一二五〇万円、原告美由貴及び原告佳郎につき各金六二五万円)、自己の損害賠償請求権(原告美津子につき金三一二一万二六六七円、原告美由貴及び原告佳郎につき各金一五六〇万六三三四円)に充当したので、原告らの残損害額は、原告美津子につき金一八七一万二六六七円、原告美由貴及び原告佳郎につき各金九三五万六三三四円となる。

(五) 弁護士費用 原告美津子につき金九〇万円

原告美由貴及び原告佳郎につき各金四〇万円

原告らは、本件訴訟の提起・追行を原告ら訴訟代理人弁護士に委任し、それぞれ右各金額を支払うことを約した。

(六) 原告らの損害合計額

(1) 原告美津子 金一九六一万二六六七円

(2) 原告美由貴 金九七五万六三三四円

(3) 原告佳郎 金九七五万六三三四円

5  結論

よつて、被告に対し、原告美津子は前記損害の内金九九九万八八六七円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六三年一二月四日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告美由貴及び原告佳郎はそれぞれ前記損害の内金四九四万九四三四円及びこれに対する右同日から完済まで右同率による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、亡朝雄が本件事故において死亡したことは認めるが、その余の事実は知らない。

3  同3の事実のうち、被告が、加害車を運転し、本件道路を西から東へ向けて時速六〇キロメートルで走行していたことは認めるが、その余の事実は争う。

4  同4の事実は、(四)のてん補額のみを認め、その余はすべて知らない。

三  抗弁(過失相殺)

1  事故現場である本件道路は、国道四三号線で、上に阪神高速道路が走つており(事故現場から東側約五〇〇メートルに魚崎出入口がある。)、昼夜とも交通量が頻繁であり、常時時速約六〇キロメートル位で車が流れている。

しかも、本件道路は、中央分離帯によつて片側四車線ずつに分けられ、歩道は一切なく、歩行者が進入してはならない場所であるうえ、右分離帯には鉄柵が設けられていて、道路の両端には石垣を築いて植樹帯が設けられ、その外側には塀(防音と横断を防ぐためと思われる。)が設置され、さらにその外側に側道がある。なお、事故現場は、交差点(信号のある松原交差点)から約二四メートル東側であつて、右交差点には横断歩道がある。

2  亡朝雄は、本件事故当日、神戸市須磨区内での上棟式のお祝いに出席したのち、同じ大工の高瀬盛男と二人で飲酒し、最後は事故現場から約五〇〇メートルないし六〇〇メートル離れたお好み焼き店で飲酒していたが、午後一〇時ころ、「トイレに行つてくる。」と言つて右お好み焼き店を出たまま泥酔状態で国道四三号線に迷い込み、本件事故に遭遇したものである。本件事故後、亡朝雄の血液からは、血液一ミリリツトル中約二・九ミリグラムのアルコールが検出されており、亡朝雄が正常に歩行することは困難であつたというべきである。

3  被告は、本件事故当時、須磨方面から東灘区の自宅へ帰るため、本件道路の中央分離帯寄り車線を時速約六〇キロメートル位で前の車の流れに従つて走行していたところ、事故現場手前の交差点を過ぎたころから左側車線の大型トレーラーに追いついたので、その後方に追従して走行していたが、その後右トレーラーの左側に出ようと考え、松原交差点の手前約三〇〇メートル位で左側車線に出て、道路の端から二車線目を走行し、交差点の手前で信号が青であることを確認したうえで交差点を通過したのち、約二四メートルの地点で本件事故を惹起した。被告は、当時小雨であり、見通しも悪かつたが、前方を注視しており、脇見はしていなかつたのであるから、亡朝雄が、路上に横臥していたり、しやがんでいて、ふらふらと立ち上がつた瞬間、加害車に衝突したものと考えざるをえない。

4  なお、被告は、制限速度を二〇キロメートル超過する時速六〇キロメートルで走行していたが、本件道路においては、全体的な車の流れとしては時速六〇キロメートルが常態であるから、取り立てていうほどの過失とは認められないし、また、第二車線が午後一〇時から午前六時まで自転車等専用道路であつたという点についても、右規制時間を記した道路標識が消えて見えなくなつていたから、規制の意味をなしていない。

5  以上の事実を総合すると、かかる危険な本件道路に泥酔状態で入り込んだ亡朝雄の行為は、自殺行為に等しく、被告としては、かかる時間、かかる場所に泥酔者がいることを予見することは不可能に近いというべきであるから、被告の過失割合は、せいぜい二〇パーセントにすぎず、被告は原告らに対し、八〇パーセントの過失相殺を主張する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁の1の事実のうち、事故現場である本件道路が、国道四三号線で、上に阪神高速道路が走つていること、本件道路が、中央分離帯によつて片側四車線ずつに分けられ、歩道は一切なく、右分離帯には鉄柵が設けられていて、道路の両端には石垣を築いて植樹帯が設けられ、さらにその外側に側道があることは認めるが、その余の事実は争う。

2  同2の事実は認める。

3  同3、4の事実はいずれも争う。

本件道路は、制限速度が時速四〇キロメートルと規制されているのであるから、時速六〇キロメートルで走行していたことは、被告の重大な過失であるし、第二車線が午後一〇時から午前六時まで自転車等専用道路であることは、道路表示によるのみならず、道路標識による規制もあるから、十分認識しうるものであり、また、他の車両が第二車線を走行していることをもつて、被告の過失がなくなるものではない。

4  同5の主張は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。

二  次に、亡朝雄が本件道路において死亡したことは、当事者間に争いがなく、かかる事実及びいずれも成立に争いのない乙第六号証の六、第七号証の一ないし三によると、亡朝雄は、本件事故により路上に転倒し、頭蓋骨開放骨折、脳脱出等の傷害を受け、本件道路において死亡したことが認められ、これを覆すに足る証拠はない。

三  次に、被告が加害車を運転し、本件道路を西から東へ向けて時速六〇キロメートルで走行していたことは、当事者間に争いがなく、かかる事実に、前掲乙第六号証の六、いずれも成立に争いのない乙第六号証の一ないし三、第一一、一二号証、第一六、一七号証の各一、二、第一九号証、第二一号証ないし第二四号証、被告本人尋問の結果を総合すると、被告は、本件事故当時、加害車を運転し、本件道路の第二通行帯を西から東へ向けて走行していたが、夜間で暗く、しかも当時降雨中で前方の見通しが悪かつたのであるから、自動車の運転者としては適宜速度を調節し、前方注視を厳にして進路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのに、自車の進路前方を横断歩行する者はいないものと軽信し、前方を十分注視せず漫然と前記速度で進行したため、おりから本件道路を南から北へ横断走行中の亡朝雄に気が付かず、右速度のまま加害車左前部を同人に衝突させたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、被告は、前方注視義務違反の過失により本件事故を惹起したものというべきであるから、民法七〇九条により、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

四  そこで、原告らの損害について判断する。

1  亡朝雄の損害

(一)  逸失利益

成立に争いのない甲第二号証の一、原告釘崎美津子本人尋問の結果によりいずれも成立を認めうる甲第三号証の一ないし一一、原告釘崎美津子本人尋問の結果を総合すると、亡朝雄は、本件事故当時、満五三歳の健康な男子で、妻である原告美津子と同居していたところ、同人は、「稲次工務店」の屋号で建築請負業を営む稲次満憲に大工として雇われ、昭和六三年一月から同年一一月までの間別表記載のとおり給与の支払いを受け、一か月の平均給与は金四九万六六三六円であつたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで、就労可能年数を五三歳から六七歳までの一四年間、算定基礎年収を金五九五万九六三二円(四九万六六三六円×一二=五九五万九六三二円)、生活費を右収入の四割、中間利息を新ホフマン計数一〇・四〇九により控除すると、亡朝雄の逸失利益は、右の計算式のとおり金三七二二万〇二八五円(円未満切捨て)となる。

(五九五万九六三二円×〇・六×一〇・四〇九=三七二二万〇二八五円)

(二)  相続

前掲甲第二号証の一及び弁論の全趣旨によると、原告美津子は亡朝雄の妻であり、原告美由貴及び原告佳郎はそれぞれ亡朝雄の長女、長男であるところ、原告らは、亡朝雄の死亡により、同人の右損害賠償請求権の全額をそれぞれの法定相続分に従い原告美津子については二分の一宛、原告美由貴及び原告佳郎については各四分の一宛相続したこと(原告美津子は金一八六一万〇一四三円、原告美由貴及び原告佳郎は各金九三〇万五〇七一円)が認められる。

2  葬儀費用

原告釘崎美津子本人尋問の結果によると、原告らは、亡朝雄の葬儀費用として金一〇〇万円以上の支出をしたことが認められるが、本件事故と相当因果関係の認められる損害としては金一〇〇万円が相当であるところ、弁論の全趣旨によると、これを原告美津子が金五〇万円宛、原告美由貴及び原告佳郎が各金二五万円宛負担したものというべきである。

3  原告らの慰謝料

前示の事故態様、亡朝雄の年令、その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、亡朝雄の本件事故による原告ら固有の慰謝料としては、原告美津子につき金九〇〇万円、原告美由貴及び原告佳郎につき各金四五〇万円をもつて相当と認める。

4  過失相殺

(一)  事故現場である本件道路が、国道四三号線で、上に阪神高速道路が走つていること、本件道路が、中央分離帯によつて片側四車線ずつに分けられ、歩道は一切なく、右分離帯には鉄柵が設けられていて、道路の両端には石垣を築いて植樹帯が設けられ、さらにその外側に側道があることは、当事者間に争いがない。

そして、前掲乙第六号証の一ないし三、成立に争いのない乙第一三号証及び弁論の全趣旨によると、本件道路は住宅街を走り、車両の交通量も多く(本件事故当日の午後一〇時五五分から午後一一時五〇分までの間における車両の交通量は一分間に約八〇台である。)、本件道路には道路標識等により、終日最高速度毎時四〇キロメートルの、午後一〇時から翌朝午前六時までの間第二車線(植樹帯から数えて二番目の車両通行帯)について自転車等専用通行帯の各交通規制が行われていること、本件事故現場の西方約七九メートルには安全施設として横断歩道が設けられていること、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

なお、被告は、本件道路は歩行者が進入してはならない場所であると主張するが、右各証拠によると、本件道路に歩行者横断禁止の交通規制そのものは行われていないことが認められる。

(二)  次に、前記三で認定の事実に、前掲乙第一一号証、第一九号証、第二一号証ないし第二四号証、被告本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被告は、本件事故当時、須磨方面から東灘区の自宅へ帰るため、本件道路の中央分離帯寄りを時速約六〇キロメートルで前の車の流れに従つて走行していたところ、やがて左側車線の大型トレーラーに追いついたのでその後方に追従して走行し、その後右トレーラーの左側に出ようと考え、本件事故現場の手前にある松原交差点の手前約三〇〇メートル位で左側車線に出て、第二車線を走行するようになつたが、道路標識を見落としていたため、同車線が自転車等専用通行帯の交通規制中であることに気が付かなかつたこと、そして、被告は、そのまま第二車線を、当時夜間で暗かつたうえ、降雨中のため前方が見えにくく、道路も湿潤であつたにもかかわらず、前方注視を尽くすことなく、漫然と制限速度を二〇キロメートルも超過する時速六〇キロメートルで走行したため、おりから進路前方を北から南へ横断歩行中の亡朝雄にまつたく気が付かず、本件事故を惹起したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

被告は、亡朝雄が、路上に横臥していたり、しゃがんでいて、ふらふらと立ち上がつた瞬間、加害車と衝突した旨を主張するが、かかる事実を認めるに足る的確な証拠はなく、かえつて前掲乙第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、亡朝雄は、北から南へ横断歩行中であつたことが認められるから、右被告の主張は採用できない。

(三)  次に、亡朝雄は、本件事故当日、神戸市須磨区内での上棟式のお祝いに出席したのち、同じ大工の高瀬盛男と二人で飲酒し、最後は事故現場から約五〇〇メートルないし六〇〇メートル離れたお好み焼き店で飲酒していたが、午後一〇時ころ、「トイレに行つてくる。」と言つて右お好み焼き店を出たまま泥酔状態で国道四三号線に迷い込み、本件事故に遭遇したこと、本件事故後、亡朝雄の血液からは、血液一ミリリットル中約二・九ミリグラムのアルコールが検出されており、亡朝雄が正常に歩行することは困難であつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

(四)  被告が前方注視義務を怠つた過失により本件事故を発生させたものであることは、前記三において既に認定したとおりであるところ、右(一)ないし(三)の各事実を総合すれば、亡朝雄にも、夜間、車両の交通量の多い危険な幹線道路を、泥酔状態で道路の安全を十分確認しないで横断歩行した過失があり、他方、被告も、自転車等専用通行帯を走行したうえ、適宣速度を調節し、前方注視を厳に尽くしていたならば、容易に亡朝雄を発見して本件事故の発生を未然に防げたにもかかわらず、夜間の降雨中漫然と高速度運転をしたものであるから、その過失の程度・態様は重大というべきである。

そこで、右認定に基づいて、双方の過失を彼此勘案すると、本件事故の発生についての過失割合は、被告の加害者側が六五パーセント、亡朝雄及び原告らの被害者側が三五パーセントとするのが相当である。

そこで、原告らの前記損害賠償請求権の全額(原告美津子については金二八一一万〇一四三円、原告美由貴及び原告佳郎については各金一四〇五万五〇七一円)から、前記認定の過失割合に従い三五パーセントを減額すると、原告美津子について金一八二七万一五九二円(円未満切捨て、以下同じ)、原告美由貴及び原告佳郎について各金九一三万五七九六円となる。

5  損害のてん補

原告らが、亡朝雄の死亡により損害のてん補として、自賠責保険から金二四五〇万円、被告から金五〇万円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがない。そして、弁論の全趣旨によると、原告らは、これらをそれぞれ法定相続分に従い(原告美津子につき金一二五〇万円、原告美由貴及び原告佳郎につき各金六二五万円)、各自の損害賠償請求権に充当したことが認められるから、原告らの残損害額は、原告美津子について金五七七万一五九二円、原告美由貴及び原告佳郎について各金二八八万五七九六円となる。

6  弁護士費用

原告らが本訴の提起追行を弁護士に委任していることは明らかであるところ、事件としての難易度や認容額等を考慮し、原告美津子につき金五五万円、原告美由貴及び原告佳郎につき各金二五万円の限度で本件事故と相当因果関係のある弁護士費用と認める。

五  結論

以上のとおりであるから、原告美津子の本訴請求は、被告に対し、金六三二万一五九二円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六三年一二月四日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、右の限度で認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、原告美由貴及び原告佳郎の各本訴請求は、被告に対し、それぞれ金三一三万五七九六円及びこれに対する右同日から完済まで右同率による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、右の限度でいずれも認容することとし、その余の請求は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦潤)

別表

<省略>

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